Media

はじめに
CHILLNNは、宿泊施設向けの自社予約システムを提供するSaaS企業です。2026年7月時点で週2回以上のリリース頻度を維持し、現場からの要望を最短1日で実装・リリースした実績も持ちます。
そのスピードの背景には、2年をかけたコード全面再設計という大胆な意思決定と、ホテルの現場の声をリアルタイムで聞き続けられる環境設計がありました。
今回は代表取締役CEO・永田諒と、エンジニア・武井勇也に、CHILLNNの開発思想と現場視点について聞きました。
人物
永田諒(ながた りょう) 代表取締役CEO。東京大学を卒業後、ITを利用したR&Dの受託を専門に行う企業にテックリードとしてジョイン。プライム上場企業を含む、20以上のアプリケーションの設計開発を行う。CHILLNNではCEO兼CTOを担い、創業期からプロダクト開発を担う。現在も設計・意思決定を主導。(写真左)
武井勇也(たけい ゆうや) エンジニア。新卒で株式会社ZOZOに入社し、ZOZOTOWNリプレイスプロジェクトやエンジニアマネージャーを担当。その後CHILLNNに入社。(写真右)
1. ホテルのOTA依存を脱し、利益率を上げるために
——まず、CHILLNNがどんな課題を解決するプロダクトなのか教えてください。
永田: 宿泊業はもっぱらOTA(楽天トラベル・じゃらん・Booking.comなど)経由の予約が一般的ですが、その分、高額な送客手数料が発生し、ホテルの利益率を圧迫しています。僕らが提供するのは、施設が直接お客様と繋がれる自社予約システムです。施設とゲストが直接繋がることで、手数料を減らし、全体の利益率を高めることを目指しています。
——競合の自社予約システムと比べたとき、CHILLNNの特徴はどこにありますか?
永田: 一番の違いは、創業当初から現場に近い距離で開発し続けてきたことです。CHILLNNのルーツは、グループ会社の水星(ホテル運営やプロデュースを行っている企業)代表の龍崎が宿泊施設を始める際の実体験からきています。
せっかく世界観を表現したSNSで集客できても、そこからホテルの世界観を壊さず・離脱させずに自社予約に繋げるインターフェースがなかった。だから、「ホテルの世界観を表現できる予約UI」を自分たちで作ることにしたんです。

2. 週2リリース、1日実装——開発スピードの秘密
——CHILLNNの開発スピードは速いと聞きます。具体的にはどのくらいのスピードなのですか?
永田: ここ1年ほどは、本番環境へのリリース(デプロイ)は、週に少なくとも2回は実施しています。不具合修正の対応も含めれば、ほぼ毎日リリースすることもあります。
武井: 最近で言うと、ホテルのマーケティング業務を担う田中幹人さんのセミナーでThreadsが活用されていると知った時、「Threadsへのリンクを追加しよう」と翌朝に決まって、その日の夕方には実装が完了したことがありました。その後LINEのリンクも実装し、今まで自力でLINEアカウントを予約ページに自力で掲載していた施設の負担も軽減することができました。
また別の例では、予約ステータスの表示改善があります。事前決済が決済エラーで現地徴収になったとき、これまでは施設が現地での徴収対応が必要なことに気づきづらい状況でした。お客様より「現地徴収が必要だと一目で識別できるようにしたい」という要望をいただき、こちらも約1日で実装を完了しました。施設の現場負担が軽減されたと好評をいただいています。

——なぜそんな速度が出せるのですか?
武井: 大きな理由が3つあります。
1つ目は、AWS のサーバーレスなクラウド基盤を採用していることです。AWS は安定性の高い基盤として国内外で広く使われており、CHILLNN もその上でサービスを提供しています。その AWS のなかでも、OS やサーバーの運用を任せられるサーバーレスという先進的な方式を採用しており、従来型のインフラトラブルに振り回されにくく、施設の予約受付を安定して提供できる構成になっています。
2つ目はあえて役割分担をしていないことです。一般的な開発チームはバックエンド担当・フロントエンド担当・インフラ担当と役割を分けますが、CHILLNNでは「機能単位」で担当を分けています。1人のエンジニアがインフラからバックエンド、フロントエンドまで一気通貫で担当するので、引継ぎの余分なコストがゼロです。役割分担すると起こりがちな「バックエンドが終わるまでフロントに着手できない」というボトルネックも発生しません。
永田: 3つ目は設計の品質です。2年かけてコードを根本から作り直したことで、今は新機能の追加が既存機能に影響を与えづらい設計になっています。「ここを直したらここが壊れた」という意外な場所への悪影響が起きにくいんです。
——「2年間かけてコードを作り直した」という話が気になります。詳しく聞かせてください。
永田: 創業後の最初の3年間、爆速で機能を作り続けた結果、コードが複雑になりすぎてしまいました。そこで、新規機能開発をほぼ止めて、機能開発がしやすいようにコード全体を根本から再設計する決断をしました。その修正にかかったのが約2年間です。
この間、外からは「開発が遅い」「機能が増えない」と見えていたかもしれません。でも、この投資がなければ今の開発速度は実現できていないんです。
武井: 私が入社した理由の一つには、その設計思想に惚れ込んだのもあります。全員が理解可能な形で全体設計が共有され、機能単位で独立しているので、誰が実装してもほぼ同じアーキテクチャにできる。これは稀有な設計だと思います。
永田: 普通の経営者はこの再設計の判断をしないと思います。なぜならすでにあるものを再設計しても直接的な付加価値を生まない、極端にいえば一円も儲からないからです。私がこの決断をできたのは、自分自身がエンジニアで、かつ当時の開発チームが少人数だったため「バグの解消だけで1日が終わり、新機能が作れない」という状況を身をもって体感していたからです。設計に投資することが、長期的に最もROIが高いと確信していました。

この設計思想は、業界全体の構造的な課題とも深く関係しています。
日本には小規模の独立系ホテルが多いため、国内の宿泊ITシステムは小規模施設向けに最適化されたものが多く、施設が成長してスケールするほど既存システムでは対応が難しくなります。また日本ではサイトコントローラー・自社予約・PMSなど分業化が進み、基本的には施設はそれぞれのシステムを導入しているため、規模拡大に応じてオペレーション上の妥協をするか、大規模なシステム刷新をするかを迫られる構造になっています。対して再設計をした現在のCHILLNNは、機能開発の拡張性が非常に高くなり、小規模から中大規模向けまで幅広く対応するポテンシャルが生まれました。
これは他の企業が真似できない構造的な差異だと思っています。
3. 現場の声をリアルタイムで受け取る仕組み
——さきほど具体的なホテル(水星)のニーズからSaaS CHILLNNが始まったというお話がありましたが、現在はどのように現場の声を取り入れているのでしょうか?
武井:週に1回以上エンジニアが商談に同席して顧客の声を直接聞いたり、毎日のイテレーション(全社の進捗共有mtg)でセールスの報告をきくことでかなり現場の反応を知ることができています。全員がワンフロアで働いているため、実装したプロトタイプをクイックに社内で共有してフィードバックを得ることも多いです。

永田: 本質的には、環境の影響が大きいかもしれません。CHILLNNは水星とオフィスを共有しており、同じSlackワークスペースを使っています。互いの秘匿情報は厳密に区分しつつも、ホテル現場で起きたインシデントや、スタッフが日々感じている不満や疑問が、私たちエンジニアにもリアルタイムで流れてきます。
▼水星とCHILLNNの連絡用のチャンネル
ホテル業界では人材課題も大きな問題です。現場の声が毎日流れてくる中で、「この問題を放置したらスタッフが心理的に疲弊する」と判断したものを優先して開発しています。
——具体的にどんな問題を優先的に解決していますか?
永田: 例えば、特に力を入れているのはオーバーブッキング対策です。ほぼ同時に予約が入る、在庫の認識にズレが生じる——こうした事態は、一度起きると現場のコミュニケーションコストが非常に高くなります。そのため、発生防止に加え、万が一発生した時は早期検知と迅速な解消に最優先でリソースを当てています。
他にも、一定の期間の予約を特定の日に一気に解放する人気施設など、予約が集中するタイミングで不具合が発生しないように、予約選択の途中で在庫がなくなった場合でも、他の選択状態は維持したままで在庫がなくなってしまったものだけ選択状態が外れるように実装しています。
武井: 開発者が「なぜこの機能が必要なのか」「どんな業務が背景にあるのか」を理解した上で実装するかどうかは、仕様の精度に大きく影響します。現場の声を直接受け取っているので、「言われた通り作った機能が結局使われない」という無駄が、CHILLNNでは起きにくいと感じています。

4. 速さと品質の両立——「バグゼロ」より「即時修正」
——開発速度を上げると品質が下がるリスクがあるように思います。どう対処していますか?
永田: 前提として、先ほどお話しした再設計により、そもそも「新しい実装が既存機能に影響を及ぼさない」構造になっています。これが品質の基盤です。
その上で、「自動テスト」「リリース前の別エンジニアによるピアレビュー」「まず水星で検証してから全体展開するという段階的リリース」の3層の品質チェックを実施しています。AIを活用した自然言語でのテスト指示も最近導入しました。
武井: エンジニアの業界ではバグをゼロにすることは難しく、バグが出た時に即座に気づいて素早く修正できる体制を整えることの方が現実的だと考えられています。そのためリリース後も膨大なエラーログとシステムログを毎日確認しています。
——セキュリティ基準への対応状況はいかがですか?大規模施設ほど厳しい要件が必要なことが多いと思いますが。
武井: 正直に言うと、現時点でセキュリティに関わるすべての認証基準を満たしているわけではありません。ただ、誤解してほしくないのは、「満たしていない」というのは脆弱性がある・ハッキングされるリスクがある、という意味ではないことです。
セキュリティには大きく2種類あります。一つは外部からの攻撃への耐性。もう一つは、組織の内部統制やガバナンスの観点——たとえば、ユーザーごとに適切な権限を絞れているか、SSOによる自社認証でのログインに対応しているか、といった項目です。前者についてはしっかりと対応できており、私たちが現状で対応しきれていないのは、主に後者の領域です。
永田: 外部の評価機関「Assured(アシュワード)」を使って、150項目以上のセキュリティ要件を客観的に棚卸しする作業も行いました。大規模施設や複数拠点を持つ企業からのご相談が増えてきている中で、ガバナンスや権限管理に関するセキュリティ強化は、今後積極的に投資していく領域として明確に位置付けています。SSOや詳細な権限管理機能のアップデートも順次対応予定です。
——過去に大きな障害が起きたことはありますか?
永田:一度だけあります。2021年1月23日、AWSのサーバーを誤って全部キルしてしまい、全サービスが停止するという事故を起こしました。PRTimesでグローバルリリースを発表した2日後のことでした。
幸い、データベースのデータは生きていたので予約データは失われませんでした。でも動いているソースコードはすべて消えた。18時に障害が発生し、翌朝3時まで復旧作業を続けて、朝6時に全顧客へ復旧完了のメールを送りました。
武井: あの事故の話は入社前から聞いていましたが、日付まで覚えているくらい教訓として刻まれているんだなと。
永田: あの経験が、今の安定稼働や迅速な復旧体制への強い意識を作っています。あれ以来、大きな障害は起きていません。

5. 今後のビジョン——AIと連動した「ホテル経営ポータル」へ
——今後、CHILLNNをどう進化させていく予定ですか?
武井:CHILLNNのお客様がブランドとして成長し、複数施設の一覧表示や会員機能などの要望をいただくことが増えてきました。中大規模施設からお声がけいただくことも増えているので、そのようなブランド・大規模施設向けの各種の機能実装も進めているところです。
永田: 最終的には、宿泊業務全体で発生するデータを集約し、AIと連動した「ホテル運営・経営のポータル」へと進化させたいと思っています。予約システムだけでなく、マーケティングや顧客管理、複数施設の横断管理まで支援できる基盤にしていきたいです。
——独自オペレーションに合わせて自社予約システムを内製する施設もあると思いますが、そちらと比較した時のCHILLNNの強みはなんでしょうか?
武井: 競合の中には、一度カスタマイズ納品したらほぼアップデートが止まる「パッケージ型」に近い製品もあります。CHILLNNは機能を追加し続け、改善し続けるSaaSである、という強い意志を持ち続けています。
永田:国内の宿泊施設はチェーンホテルでも、海外と比べると小中規模であることが多いです。そのようなブランドがシステムを内製化しても、外資系大手ブランドとの技術投資競争には勝てないという課題があります。それであれば、進化していくSaaSを使う方が長い目で見た時の費用対効果は高く、他社の使用方法などの知見がSaaSに機能として蓄積される利点もあります。
過去5年以上、設計・コード・ドキュメントへの地道な投資を続けてきました。その積み重ねが、今AIを最大限に活用できる土壌になっています。エンジニア5名の小さな組織でありながら高いROIでAIを活用できているのは、この背景があるからです。これから先、僕らの開発速度はさらに上がっていくはずだと自負しています。

おわりに
「開発が速い」ことは、単なるスピードの話ではありません。現場の声が正確に・素早く製品に反映されること、新たなビジネス要件に迅速に対応できること。それは、顧客である施設の競争力に直結します。
CHILLNNの開発スピードの背景には、代表CEO自らがエンジニアであるバックグラウンド、2年間のリファクタリング投資、サーバーレスによるインフラ管理の自動化、役割を分けない組織構造、そしてグループ会社のホテル現場とのリアルタイム連携などさまざまな要因がありました。
プロダクトを進化させ続けるパートナーを探している施設担当者の方は、ぜひCHILLNNにご相談ください。
Editor

小林 実可子
執筆/撮影
CHILLNNリサーチャー。マーケティングリサーチ会社での経験を強みに、各種コンテンツ制作を担当。

江藤 遥平
取材/執筆/撮影
CHILLNN PdMおよびマーケティング統括。他社での事業責任者を得て、宿泊施設の集客・収益改善を支援。
おすすめの記事






