OTA依存ゼロ・広告費ゼロ。大分の山奥の一棟貸しが実践する価値設計

CHILLNN編集部

2026.8.18

「立地が悪い、観光地でもない、人口2000人の山奥」…それでも開業1年で直販率100%・組単価80,000円・口コミ★5が99%(講演時点)を実現した宿があります。大分県のサウナ付き1日1組限定施設「KIGEN」です。

2026年7月30日、「直販率100%の宿と考える、ファンを魅了する価値設計」と題したセミナーにて、KIGENオーナー・渡邉翔太郎さんに、参加者とのディスカッションを交えながらその価値設計の全過程を語っていただきました。本記事では、その中から4つのポイントをご紹介します。

登壇施設「KIGEN」とは

大分県の人口2000人ほどの小さな山里に佇む、1日1組限定のオールインクルーシブ宿泊施設です。博多からは車で約3時間、大分空港からも2時間という決して便利とはいえないアクセスながら、「忘れられない思い出を。」をコンセプトに、九州でも珍しいセルフビルド型の薪ログサウナ、地産食材を使った2食付きのレストラン級の食事、アルコール飲み放題のオールインクルーシブプランなどを提供しています。

運営するのは合同会社バーナム代表・渡邉翔太郎さん。「地方発掘化計画」をミッションに掲げ、観光地ではない地方エリアの魅力を再定義する活動を続けています。

KIGEN

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イベント概要

  • テーマ:直販率100%の宿と考えるファンを魅了する価値設計

  • 開催日:2026年7月30日

  • 登壇者:渡邉翔太郎氏(合同会社バーナム代表 / 宿泊施設「KIGEN」オーナー)

  • 共催:CHILLNN

  • 形式:ワークショップ(参加者チャット・ディスカッションを交えたインタラクティブ進行)

ポイント① 価格競争から降りた先にある勝ち筋

「OTAに載せないのがすごい、という話ではない」渡邉さんはセミナー序盤でこの誤解をはっきりと解きました。

顧客は、旅行に行くことが決まっている顕在層と、まだ旅行を考えていない潜在層に分かれます。顕在層はコスパ重視でOTAと相性がよく、潜在層はSNSで世界観に惚れ込んでいくため直販・自社SNSが刺さります。どちらが適しているかは施設の特性ごとに異なるのです。

▼顧客は潜在層と顕在層に分けられる

顧客の種類

OTAか直販かという議論より先に、自施設が集客したい客層はどちらかを定義することが集客戦略の出発点です。KIGENが狙ったのは「世界観に惚れ込む潜在層」であり、だからこそ価格競争から降りることができ、OTA・広告費ゼロのまま直販100%が成立しています。

ポイント②「自分が思う価値」と「お客様が感じる価値」は違う

セミナーで繰り返し登場したキーワードが「オウンドバリュー(自施設の価値)」でした。

オウンドバリューとは、「自分の施設が価値だと思っているもの」ではありません。お客様から価値だと思われているものの集大成が本当のオウンドバリューだと渡邉さんは言います。

サウナが人気、食事が好評…それ自体は事実かもしれませんが、「施設側がそう思っている」だけでは価値になりません。お客様が主語になって初めて、それが選ばれる理由になります。

オウンドバリューについて

さらに、「お客様から選ばれるのを待つのではなく、選ばせるのが事業者の仕事」と渡邉さんは言います。どんなお客様が多いか・それならどんな価値を提供するか・具体的にはどんなサービスになるか…。KIGENでは、都会エリアの人の多さから「1日1組限定」に価値が生まれそうだと考え、実際に都会の喧騒から離れて静かに過ごしたいお客様に刺さりました。

価値はお客様が見つけるものではなく、こちらから仕向けるもの。この発想の転換が、KIGENの集客戦略の土台になっています。

ポイント③ 5つの価値から3つに絞り込む

「全部で勝とうとすると、どこにも勝てない」これが次に紹介されたフレームワーク「ファイブ・ウェイ・ポジショニング」の核心です。

出典は書籍「競争優位を実現するファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略」。星野リゾートの星野社長も書籍監修に関わったというこのフレームワークでは、施設価値・サービス価値・体験価値・価格価値・アクセス価値の5軸から、自施設が勝てる3つを選び、そこに経営資源を集中させます。KIGENが選んだのは「施設価値・サービス価値・体験価値」の3つ。価格とアクセスは意図的に捨てました。

▼書籍「競争優位を実現するファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略」より

ファイブウェイ・ポジショニングについて

アクセスについては逆転の発想もありました。「道が細くて迷いそうになりながら到着した時、期待値が自然と上がる。アクセスの悪さ自体が体験の一部になっている」と渡邉さんは話します。そして選んだ3軸に徹底的に投資した結果が、オールインクルーシブ(2食・アルコール全種・薪ログサウナ入り放題)、フルカスタマイズのサプライズ演出、SNS映えするマシュマロベッドといった体験価値です。

その結果、開業1年で口コミ100件中99件が★5、半年以内にリピートした組も3組に上りました。

ポイント④ 「寝る場所」を超えた宿の価値

4つめのポイントは「旅の目的地になる宿(デスティネーションホテル)」です。

デスティネーションホテルとは、近隣の観光地ではなく宿そのものが目的地となり、「この宿に行きたいから周りを調べる」という旅を生み出す施設のことです。

立地・価格・周辺観光地に依存していると、資本力のある競合に飲み込まれていく。しかし「あなたの宿だから行きたい」と思ってもらえれば、離島でも山奥でも選ばれ続けることができます。

デスティネーションホテルとは

KIGENはまさにその実例です。「とにかく空室を埋めること」は宿泊事業の本意ではなく、「選ばれ続ける宿になること」が目指すべき姿であると渡邉さんは語りました。

ポイント⑤ 数値分析は「なんとなく施策」を脱するための特効薬

セミナーの終盤、渡邉さんは参加者にこう問いかけました。「自施設の稼働率・平均客単価(ADR)・平均リードタイム・キャンセル率…今すぐ3分で出せますか?」

「コンセプトや価値設計をどれだけ丁寧に考えても、実行後の効果を数値で検証していなければ意味がない。数値は嘘をつかない」と渡邉さんは断言しました。

「春休みだから30%オフ」「他の施設がやっているからうちも」こうした"なんとなく施策"は、自施設の数値を見ていないために起きます。数値を見ることで、自施設に本当に合った施策が初めて見えてくるのです。

分析すべき数値

KIGENでは予約データをすべてCSVに落とし込んで数値管理しており、チェックイン曜日の分布から来客の職業を推定してSNS投稿に活かすなど、数値を施策に直結させています。「数値分析で現状を把握し、それをオウンドバリューと掛け合わせて施策を立てる。このサイクルが、選ばれ続ける宿をつくる」というのが渡邉さんの方針です。

バーナムでは予約データをアップロードするだけでAIが自動分析してくれる数値分析ツール「TERRACE INSIGHT」を提供しており、数値管理の第一歩として活用できます。ご利用希望の方はバーナムまでご一報ください。

TERRACE INSIGHT

まとめ

ワークショップの中ではブレイクアウトルームを使った少人数でのディスカッション時間が設けられました。参加者からは自分の施設のオウンドバリュー共有や悩み相談など様々な意見交換がなされ、渡邉さんの話を自分の宿に引き付けて考えを深められる時間になりました。

今回のワークショップを通じて見えてきたのは、「広告でも値引きでもなく、価値を定義して磨くことが集客の起点になる」ということです。OTA依存・広告費ゼロで直販率100%を実現したKIGENの軌跡は、宿泊施設は価値設計で差をつけられることを証明しています。

まずは施設価値・サービス価値・体験価値・価格価値・アクセス価値の5軸を紙に書き出し、本当に勝てる3つを選ぶところから始めるのはいかがでしょうか。


渡邉翔太郎さんについて

渡邉翔太郎さんについて

合同会社バーナム代表。「地方発掘化計画」をミッションに掲げ、観光地でない地方エリアの魅力を再定義する活動を続ける。大分県の人口約2000人の山里で、九州でも珍しいセルフビルド型薪ログサウナを備えた1日1組限定オールインクルーシブ施設「KIGEN」を運営。博多から車で3時間、大分空港から2時間というアクセスの悪さを逆手に取り、OTA・広告費ゼロのまま開業1年で直販率100%・組単価80,000円・口コミ★5を99%達成。

Editor

藤田 真菜

取材/執筆/撮影

CHILLNN マーケター。広告運用・セミナー運営・コンテンツ発信等を通じて、CHILLNNと宿の魅力を届ける。

小林 実可子

執筆/撮影

CHILLNNリサーチャー。マーケティングリサーチ会社での経験を強みに、各種コンテンツ制作を担当。