1年半で直接予約100%。熱海のホテルがOTA全廃のために実践したカスタマージャーニー設計

CHILLNN編集部

2026.7.28

ホテルの直接予約率を上げたい、OTA依存から脱却したい——そう考える宿泊施設の担当者に向けて、実際に1年半で直接予約100%を達成した施設の実施した施策とその効果をお届けします。

2026年7月14日、CHILLNNで「1年半で直販率38%から100%を実現した実践ロードマップ」と題したオンラインセミナーを開催しました。

ゲストは、静岡県内でスモールホテル「HOTEL 2YL ATAMI」「1999/hotel」を運営する合同会社環迎社のCMO大友龍さん。同社の直販比率は現在100%と類まれな水準を誇ります。

売上の前年割れという「よくある痛み」を出発点に、プランや発信の思いつきではなく、カスタマージャーニーを1枚に描くところからやり直した——その試行錯誤のプロセスを、数字とともに惜しみなく話していただきました。

この記事では、セミナーの中から特に反響の大きかったポイントを4つに絞ってご紹介します。「OTA依存から抜け出したいが、何から手をつければいいか分からない」という施設ほど、明日から試せるヒントが見つかるはずです。

イベント概要

  • テーマ: 1年半で直販率38%から100%の実践ロードマップ大公開

  • 開催日:2026年7月14日

  • 登壇:
    ゲスト:合同会社環迎社 CMO 大友龍氏
    聞き手:CHILLNNマーケティング担当 藤田真菜

  • 事例施設:HOTEL 2YL ATAMI(静岡県熱海市・8室)/1999/hotel(静岡県伊東市・7室)

  • 背景:売上の前年割れを契機に、OTAを段階的に手放し、SNS×直販での集客体制を独自に構築。2025年8月にはOTAからの新規予約を停止し、直販率100%を達成した。

ポイント1. すべての起点はカスタマージャーニーを徹底的に考え抜くこと

大友さんの実践がユニークなのは、SNSやプランといった個別の打ち手から入らなかった点です。出発点はあくまで、お客様が宿を知ってから帰るまでの流れを1枚の地図に描き切ることでした。

きっかけは、シンプルかつ痛みのある課題。ある年の10月とその翌年10月を比べると、売上は前年比81%まで落ち込んでいました。原因を振り返ると、大友さんは3つの構造的な問題があったと言います。ひとつは、ペルソナやターゲットを意識したマーケティングが不在だったこと。ふたつめは、SNSやホームページの更新が不定期、あるいは止まってしまい、お客様が宿に出会うための動線そのものが消えていたこと。そしてこれらを束ねる一貫した戦略がなかったことです。

環迎社が抱えていた構造的な課題

こうした状態でありがちなのが、稼働が足りないから10%オフのクーポンを乱発する、課題が分からないからアンケートを取るものの取りっぱなしで終わる、といった単発の打ち手の連続。大友さんはこれを断ち切るため、全体をひとつのジャーニーとして再設計する必要があると考えました。

ジャーニー再設計の必要性

まず、ゲストのニーズを3つに分類します。「熱海という土地へ行きたい(温泉・景観への動機)」「おしゃれで可愛い内装の宿に泊まりたい(日常からの離脱)」「憧れの人と同じ体験がしたい(インフルエンサー体験)」の3つです。

視点の転換

しかし、ニーズを分けただけでは個別対応の域を出ません。そこで大友さんは、購買行動を「情報収集・比較検討・予約・予約後〜宿泊前・宿泊体験・宿泊後」の6フェーズに分解し、それぞれに「感情・背景・行動・接触メディア・対応アクション」を書き込む表を作成しました。いわば6フェーズ × 4軸=24マスのマップです。

カスタマージャーニー

全体を1枚にして初めて、どこに穴があり、どの打ち手が最も効くのかが見えてくる。バラバラに施策を打つより、この地図の上で優先順位をつけて動く方が効果が高い、というのが大友さんの結論です。以降の3つのポイントは、この地図の各フェーズを埋めていった実践そのものだと捉えると、理解がぐっと深まります。

ポイント2.  SNSは「商品」ではなく「世界観」を撮り、"仕組み"で続ける

24マスの最初のフェーズ、情報収集の主役に据えたのが自社SNSでした。ここは「よく言われるが、続けるのが一番難しい」領域だと大友さんも認めます。

以前はスマートフォンで、撮るものがあったときにバラバラと撮影していたそうです。その結果、投稿が半年ほど止まってしまうこともありました。そこで思い切って、撮影機材をソニーのフルサイズミラーレスに統一し、レタッチはAdobe Lightroom Classicで標準化。「Adobeと聞くと難しそうですが、使ってみるとスマホアプリと大きくは変わらず、分からないことはYouTubeで調べれば自分たちでできるようになった」と言います。

自社SNSの運用

そして継続の肝が、投稿カテゴリーを事前に決めてしまうこと。「伊豆の自然(海や桜など季節の風景)」「各部屋の定点写真」「館内を自由に撮った写真」の3カテゴリーを決めたことで、月3投稿を一度も途切れさせずに続けられているそうです。何を投稿するか毎回悩まなくて済むため、無理なく回る仕組みになっています。

また撮影方針として大友さんが強調したのは、「商品ではなく世界観を撮る」という一点でした。アメニティやイベントの情報は、この後の比較検討フェーズ(予約ページ)で伝えればいい。SNSに担わせるべき役割は、ぱっと見た瞬間に「この宿の雰囲気、素敵だな」と感じてもらうことだけだと言い切ります。

投稿画像のイメージ

この方針は、意外な成果にもつながっています。同施設には国内客に加えて韓国や台湾の若い層も宿泊していますが、その多くはInstagramのリールやTikTokで世界観に触れて来館するそうです。世界観を軸にした発信が、結果的に言語や国境を越えた認知を生んでいるわけです。

ポイント3.  OTAを全廃した本当の理由は「手数料」ではなく「ミスマッチ」

直接予約の強化の話になると、OTA離脱は「手数料削減が目的」と受け取られがちです。OTAの手数料はおよそ15%、自社予約システムは3%ほど。差は確かに大きい。しかし大友さんが最も大きな理由に挙げたのは、意外にも「ゲストのミスマッチ」でした。

熱海はOTAの集客力が非常に強いエリアです。しかし、温泉や充実したアメニティ、館内のバーまで備えた完成度の高い施設と同じ土俵で検索1ページ目を競うと、「熱海の宿ならこれくらい揃っているはず」という前提のお客様が来館します。すると、こだわりはあっても設備の贅を尽くしているわけではない自分たちの宿との間にギャップが生まれ、口コミ評価が下がる。その口コミを見た次のお客様が比較検討フェーズで候補から外してしまう——OTAを続けるほど売上が落ちるという逆説的な悪循環に陥っていた、と振り返ります。

離脱は決して一気に進めたわけではありません。リスクを踏まえ、段階的に移行しています。2023年10月にOTA廃止の議論を開始し、翌年には各予約サイトで「新しい宿ではない」「アメニティがすべて揃うわけではない」といった事前質問を追加して期待値をコントロール。その後、OTAのオプションを排除したり、新規予約を取らない旨を掲載したりと段階を踏み、2025年8月にOTAからの新規予約を停止。そして今年1月、自社予約100%を達成しました。

数字で見ても効果は明快です。自社予約比率は2024年10月の38%から半年で約1.7倍の66%に伸び、今年1月に100%へ到達。OTAをやめたことでGoogleマップの評価は4.1から4.4へ上昇し、単月では前年比175.54%を記録しました。OTAを全廃した8月ですら、目標達成率は104.9%です。

OTA脱却までの経緯

大友さんが挙げたOTA離脱の「3つの確信」も示唆に富みます。ひとつは、消える手数料の分だけお客様に還元でき、自分たちの資産としても蓄積されること。ふたつめは、OTAの画一的なデザインでは、どうしても伝えたいブランドの世界観や想いが伝わりきらないこと。そして3つめが、直接予約だけでも十分に事業が回るという確信です。

なお質疑では「直販だけで売上が下がったらOTAを再開するか?」という質問も出ました。大友さんの答えは「あり得るが、そもそもやめた理由がミスマッチなので慎重に考える」。OTAをやるべき宿もあれば、やらない方がいい宿もある。だからこそ、自施設の状況を見極める判断が重要だと語っていました。

ポイント4.  「誰が入っても回る」宿へ ── 属人性を排除し、体験を仕組み化する

集客だけでなく、予約後から宿泊後までの体験も、大友さんは徹底して仕組み化しています。背景にあるのは、3店舗目・4店舗目と展開していくうえで「ずっと自分たちが現場に立ち続けるのは難しい」という多店舗経営者ならではの視点です。

予約後〜宿泊前では、予約直後とチェックイン当日にウェルカムメールを送付。これはCHILLNNの機能で自動化しているため、送付漏れを防ぎながら工数も削減できています。おすすめの飲食店紹介も、単にリストを貼るのではなく「もし決まっていなければご紹介します」という相互コミュニケーションが生まれる形にしたところ、「過ごし方まで提案してくれた」という口コミが返ってくるようになったそうです。

予約後→宿泊までの施策

宿泊体験では、属人性の排除が随所に効いています。チェックイン説明はGoogleスライドで作り込みiPadで案内する形に刷新し、ロールプレイを重ねて「誰が立っても同じトーン」で案内できるようマニュアル化。朝食も静岡のコーヒー店やパン屋のこだわりの品に変えたところ、購買率は前月比で24%から35%へ上昇しました。清掃も「毎日・週1・月1」の項目に分けて標準化し、「この人は掃除したがあの人はしていない」といったムラを排除。さらに、思わず撮りたくなる電飾看板をエントランスに用意することで、お客様のSNS投稿(UGC)も増えています。

宿泊体験における施策

宿泊後も、サンクスメールをCHILLNNの機能で自動送付し、また泊まりたいと思ってもらうきっかけをつくっています。メーリングリストの許諾を得たお客様には年末の挨拶も送るなど、一度きりで終わらせない関係づくりを続けています。

宿泊後の施策

こうした地道な仕組み化の積み重ねは、副産物も生みました。自ら営業したわけではないのに、NHKやマガジンハウス『an・an』、書籍への掲載が続き、これまでリーチできていなかった層にも宿の存在が届くようになったといいます。「誰が入っても回る」状態づくりこそが、体験の質を安定させ、多店舗展開を支える基盤になっているのです。

まとめ

大友さんがセミナーの最後に、参加者へ向けて挙げた実践ステップは3つでした。まず、自分の宿のカスタマージャーニーを全フェーズ書き出してみること。次に、打ち手を数字(予約率・ADR・稼働率・前年比)で測り、できれば月次で見直すこと。そして、属人性を排除して誰が入っても回る仕組みをつくること。

特別な設備がなくても、過ごし方や世界観、周辺の自然といった「自分たちにしかない価値」を丁寧に届ければ、直接予約は十分に成立する——8室と7室、2つのスモールホテルの実績がそれを物語っています。

特別な資本や設備ではなく、顧客体験を1枚の地図として描き、数字で検証し続ける姿勢そのものが、再現性のある直販強化の本質なのだと思います。OTA依存に悩む施設こそ、まずは1枚の顧客体験マップを書くところから始めてみてはいかがでしょうか。

なおCHILLNNでは、雑誌のように写真と文章でプランを紹介できる予約ページや、ウェルカム/サンクスメールの自動送信、前売りの宿泊券、従業員・リピーター向けのシークレットプラン、Googleマップからの直接予約やAIO対策といった、直販強化を後押しする機能を提供しています。「自分の宿ならどう使えるか」をイメージしながら読んでいただけたら幸いです。


大友 龍さんについて

大友龍さんプロフィール

公式サイト:「HOTEL 2YL ATAMI」「1999/hotel
予約サイト:「HOTEL 2YL ATAMI」「1999/hotel
Instagram :「HOTEL 2YL ATAMI」「1999/hotel

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